酸橘（すだち）割るナイフ一閃稲光り

指と指つなぎて愛を語るならしばし光れる稲光かな
恋の猫しなやかにして屋根歩む何か妖しき月光の降る
夢多き少年ひとり口笛を吹きては眺む白鳥の舞
その昔田村麻呂にて誅されし蝦夷（えみし）の館百合の花咲く
秋芝のしとねに見たる鰯雲一筋走る飛行雲かな

夕焼を見るばかりなる震災忌
酸橘（すだち）割るナイフ一閃稲光り
秋扇閉じて題詠投句せり
鬼の子の桜紅葉を装ひけり(蓑虫）
山装ふ水子地蔵に師の祈り
日曜の祈り深くて花茴香
茴香花活け賛美歌の哀しくも
哀しくも青潮見ゆる礼拝堂
秋潮の高ぶり哀し蝶夫人
秋の蝶紫蘇の花へと舞ひ降りぬ
稲蝗追ひきける昔飢えの日々
赤メロン割るべく包丁研ぎにけり
瀧拝み那智黒の数珠購ひぬ
稲光り絹のハンカチ良く洗ふ
花野行く泳ぐやうにと犬を追ふ
蜩のまっただなかに目覚めけり

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