幻の君に影あり夏の夢
2003年10月29日しりとり俳句の大先輩の龍吉さんの作品です。
第49回角川俳句賞 受賞作品
『色 鳥』 馬場龍吉
石ころに石ころの影一遍忌
苧殻火のかたちの灰や崩れたる
この土間の固きうねりや靈祭
ふらふらや御魂迎への蚊の姥は
手花火のそれはまぶしき子どもかな
捨あふぎ都をとほく卓にあり
色鳥の五六七八まだまだ来
初潮や文箱の螺鈿にじいろに
釉薬を如雨露で流す菊日和
水底に影の生れて澄みにけり
水口を落ちてはるかに水の渦
霧を来て鏡の中に立つてをり
炉開やすべての窓を開け放ち
裏山に鬼の子の棲む暮色かな
降つてくるものを眺めて雀瓜
威銃蜘蛛の囲に引つ掛かりゆく
とつてもとつてもとつても草じらみ
枯草のつらぬいてゐる兎罠
猟犬ハ腹ヲ汚スヲ旨トスル
手のとどくところに影や冬木立
日向ぼこしてゐる影のありにけり
手袋を編みあげし指冷たくて
人殺すごと風邪の氷を割つてをる
雪吊の縄のとぐろの解かれだす
生きいきと青にじませて草氷柱
潮騒の路地の奥まで初日の出
炎にも影ありにけり女正月
雪振るととんどの灰の舞ひあがる
とんど火の耳を真ッ赤に透きとほる
いくたびも並んで搗きぬ寒の餅
龍天の盥をめぐる鱗か
しゃぼん玉ぶつかるまへに割れにけり
鳴きながら透きとほりけり揚雲雀
残りては川底さぐる鴨の尻
釣銭の落ちてころがる海市かな
雁風呂や柴折りたして折りたして
流し雛いろをきはめて回りたる
涅槃図のはるか遠くを鳴く鴉
万華鏡のぞくや草の芳しく
群れなして黒きつむじや柳鮠
水甕にたゆたふ水の日永かな
いかのぼり小さくなつて重くなる
花筏揺れる川面のそのままに
暮ぎはの火の粉を散らし花篝
曳船が船を曳きゆく暮の春
日傘より一人は海へ走りだす
夏籠の栄螺の蓋をつつきをり
鴨の子やこの世にくぐる橋いくつ
四阿のひとを呼びだす浮巣かな
葉の裏へ蛍の光まはりたる
以上
以下 麦秋
地獄の火纏ひし秋刀魚口中に
溶接の火を眩しみて鯊を釣る
食卓に大根おろし秋桜
白肌の眩しき乙女秋泳
蓮見へるレストランにて婚の宴
新秋刀魚小骨を巴里と食みにけり
木卓に紅葉の影や握り飯
食堂の硬き土間ありちろろ虫
四阿に木の卓二つ秋桜
しゃぼん玉童話の家に生まれけり
秋日傘傾け会釈薄けはひ
水澄みし池に硬貨を洗ひけり
紅葉浮く池に小銭を洗ひけり
幻の君に影あり夏の夢
草虱付けて食みけり握り飯
秋草の香に包まれて太極拳
夢に見し木造校舎黄落す
第49回角川俳句賞 受賞作品
『色 鳥』 馬場龍吉
石ころに石ころの影一遍忌
苧殻火のかたちの灰や崩れたる
この土間の固きうねりや靈祭
ふらふらや御魂迎への蚊の姥は
手花火のそれはまぶしき子どもかな
捨あふぎ都をとほく卓にあり
色鳥の五六七八まだまだ来
初潮や文箱の螺鈿にじいろに
釉薬を如雨露で流す菊日和
水底に影の生れて澄みにけり
水口を落ちてはるかに水の渦
霧を来て鏡の中に立つてをり
炉開やすべての窓を開け放ち
裏山に鬼の子の棲む暮色かな
降つてくるものを眺めて雀瓜
威銃蜘蛛の囲に引つ掛かりゆく
とつてもとつてもとつても草じらみ
枯草のつらぬいてゐる兎罠
猟犬ハ腹ヲ汚スヲ旨トスル
手のとどくところに影や冬木立
日向ぼこしてゐる影のありにけり
手袋を編みあげし指冷たくて
人殺すごと風邪の氷を割つてをる
雪吊の縄のとぐろの解かれだす
生きいきと青にじませて草氷柱
潮騒の路地の奥まで初日の出
炎にも影ありにけり女正月
雪振るととんどの灰の舞ひあがる
とんど火の耳を真ッ赤に透きとほる
いくたびも並んで搗きぬ寒の餅
龍天の盥をめぐる鱗か
しゃぼん玉ぶつかるまへに割れにけり
鳴きながら透きとほりけり揚雲雀
残りては川底さぐる鴨の尻
釣銭の落ちてころがる海市かな
雁風呂や柴折りたして折りたして
流し雛いろをきはめて回りたる
涅槃図のはるか遠くを鳴く鴉
万華鏡のぞくや草の芳しく
群れなして黒きつむじや柳鮠
水甕にたゆたふ水の日永かな
いかのぼり小さくなつて重くなる
花筏揺れる川面のそのままに
暮ぎはの火の粉を散らし花篝
曳船が船を曳きゆく暮の春
日傘より一人は海へ走りだす
夏籠の栄螺の蓋をつつきをり
鴨の子やこの世にくぐる橋いくつ
四阿のひとを呼びだす浮巣かな
葉の裏へ蛍の光まはりたる
以上
以下 麦秋
地獄の火纏ひし秋刀魚口中に
溶接の火を眩しみて鯊を釣る
食卓に大根おろし秋桜
白肌の眩しき乙女秋泳
蓮見へるレストランにて婚の宴
新秋刀魚小骨を巴里と食みにけり
木卓に紅葉の影や握り飯
食堂の硬き土間ありちろろ虫
四阿に木の卓二つ秋桜
しゃぼん玉童話の家に生まれけり
秋日傘傾け会釈薄けはひ
水澄みし池に硬貨を洗ひけり
紅葉浮く池に小銭を洗ひけり
幻の君に影あり夏の夢
草虱付けて食みけり握り飯
秋草の香に包まれて太極拳
夢に見し木造校舎黄落す
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