木漏れ日の隙間に見へし鰯雲君と歩めば言ふこの無し

返り藤見し驚きの朝散歩
向日葵の花を思ひて魂祀り
喜雨と言ふには多すぎる冷夏かな
魂祀り白玉母の好きなもの
白玉を供ふは母の好きなれば
亡き母の好きな白玉供へけり
フロントに紅花活けて客迎ふ
霧触れて静かに開く蕎麦の花
芋の露佐久には秋の迫りけり
千切れ飛ぶ雲の彼方に虹生まる
包丁を丹念に研ぎ西瓜割る
ガレージは猫の好みの昼寝床
令夫人猫のかたわら三尺寝
コスモスや猫のハンケチ好きなる子
コカコーラ薬の味もしたりけり
Tシャツは純白が良しと漂白す
白粉花を包むハンカチ純白で
絵手紙の白百合まこと大きくて


トンネルを抜けて入りたる雲のなかいま芋嵐またコスモス咲ける
森のなか歩むは愛する君とともいま森林浴をなさんとぞする

桃剥けば裏富士赤く暮れにけり
やがて行く学校にある桑いちご 
手の平に握るあめ玉秋祭り
秋の夜に公園で会ふ友ひとり
母の魂戻り来たりし素秋かな
天気さへ良ければ花野散歩せむ
竜巻の渦の移動も秋暑し
佐久平雲に冷えたる秋桜
平和ぼけ秋のなすびは旨すぎて 
霊棚に供ふ秋茄子二つ三つ
空蝉や未だはらから帰らぬ夜
吾が思ひ空蝉にあり日照り雨
師への思慕遙かな虹に託しけり
雁来紅活けて清楚に寡婦通す
雁来紅活けて祈りの深さかな
みちのくの柿を思へば逝きし人
幼き子残し逝きけり凌霄花
哲人の顔とも思ふ枯蟷螂
表紙絵の夢二の女秋に痩せ
恋の文焚いて寂しき素秋の夜
蜩や徹夜の作業終へし朝
飛ぶ雲や口笛吹くも秋祭
あの世にて酒飲む父よ星祭
かき氷崩して思ふ恋の文


背伸びして雲へとのばす双手かな今気功体操始まりにけり
啄木鳥や木霊が返す音聞きて独りし歩む尾瀬の沼尻

西瓜食べ合宿すべて終はりけり
妻好きな大きな西瓜買ひにけり
種あまたああ面倒な西瓜かな
出羽国の農家のラベル西瓜割る
カーテンを引きてもなほも大西日
出羽国の農家のラベルある西瓜
半跏座で眠りをりけり大西日
瞑目の半跏座佛に秋の蝶
秋暑く少し眠たき会議かな
虫の夜に目覚めて嘗めるチョコレート
虫の夜の空腹癒す薄煎餅
秋めくや二人で遠くボート漕ぐ
鳳仙花実の跳ねてさへ淋しけり
吹き出たる汗青春の反戦歌
秋暑し目覚むることももの憂げに 
科野いま蝉時雨また日照雨(そばえ)かな
佐久平日照雨(そばえ)に煙る蕎麦の花
佐久平日照雨(そばえ)のあとの芋嵐
夜もなほ瑠璃色にして秋の蝶
秋扇忘れるさへも恋やつれ
恋の文秘かに焼くも星月夜
秋扇開けばありし恋の文
機関車の長き沈黙星月夜
機関車の黒き沈黙夾竹桃
咲き初むる萩の花にも日照雨(そばえ)かな
合宿の小径に萩の咲き初むる
コスモスや子供機関車煙(けむ)吐かず
廃屋にひともと残る夾竹桃
廃校の空を群れなす赤蜻蛉
望月や帰る夜近きかぐや姫(^−^)
背伸びして君と腕くみ歩きたくただそのためのハイヒール買ふ
またあした逢ひたき君は明日香野に袖を振りつつ去りて行きけり

蜩の武蔵嵐山高速道
しばらくは日照雨を受けて泳ぎけり
日照雨(そばえ)避けしばらく遊ぶ珈琲店
百合の花砂糖を入れぬ珈琲良し
百合の花看板隠し喫茶店
靄深き畑一面の蕎麦の花
信州の旅の土産の走り蕎麦
さやかなる旅に摘みたる秋桜
秋さやか季寄せ忘れじ旅鞄
秋さやか小さな旅に行きし妻
トンネルを出れば山霧湧きにけり
まどろみし夢のなかにも百合の花
佐久平いま青芒風に揺れ
トンネルを抜ければ佐久の黍嵐
休憩所日照りの雨の蝉時雨
トンネルを抜けて素秋の里に入る
青李実る葡萄酒美術館
赤ん坊の抱き心地や百合の花
アイスクリン嘗めて嬉しき軽井沢
トンネルを抜けて科野は霧の国
ギターの絃少し緩みし返り夏
モネの絵のさざ波分けるボートかな
吾よりも妻が好きなる冷奴
さやかなる風にも乗りて太極拳
佐久さやか光まばゆき蕎麦の花
妻留守の独りで食ぶる秋刀魚かな
盆の客来るとて掃きし青畳
文字摺草分けて現る子猫かな 
空蝉の梨の小枝に縋りたる
朝さやか国見の丘より遠太鼓
秋祭しばし聞きし遠太鼓
目瞑れば枕木燃ゆるそのなかに逃げし戦の炎忘れじ
死の旅へ出征兵士見送れる勇ましき歌耳に残れる
麦秋に数多の家を引き崩し火止めとなせし戦忘れじ
思ふれば数多の兵は飢え細り泥水飲にて果てにかるかも
ひもじさに青梅食みし疎開の子今生きのびて朝に泳げり
終戦の玉音放送聞きをれば汗と涙に濡れし思へ出
炎熱の路地にへたりて携帯のメール打ちをる少年数多
凍りける鉄の如きの土割りて骸を埋めしかなたの日々よ
病院の前を通れば悲しみの母の逝きたる部屋を思ゆる

稲雀群なしてをり毛越寺
盆太鼓隣部落と競ひけり
廃校となると噂や法師蝉
夕立去り一つグラスの破片見し
棟上げや幣にさやかな風来たる
扇子置きやおら題詠投句せり
夕闇が明らかにせし白扇
甲斐駒の秋なる雲に分け入りぬ
かの人のTシャツ何時も真白にて
未熟児のすこやかにして稲の花
白団扇露天風呂にと忘れあり
祖霊いま帰りし気配走馬燈
稲の花今も信ずる未来かな
選漏れの句評となりて秋の蝶
噺し家の秋の扇の変化かな
跡継ぎの去りし青田を独り守る
浜木綿や民宿女将海女ことば
避暑宿の暮れても未だ蕎麦の花
疎開の子母恋ひの歌百日紅
今年また試験に落ちて秋風鈴
妻留守の秋を灯して良き読書

遠き日の駅より出征歌あがり今凌霄の花散るも哀しき
吾が血継ぐみどりごの指の確かと持つ箸の白木も目出度かりけり
地下駅は遙かな階の底なれどやがて団栗ろころ落ちる

みどりごのおしゃぶり噛みて昼寝かな
秋霖や積み木で遊ぶ淋しき子
卓上にトマト並べて今朝の秋
昼寝後のしばしの虚脱蝉時雨
草の香の毛布の眠り赤蜻蛉
今朝もまた浅間に雲や蕎麦の花
蕎麦の花浅間の山は雲を生み 
茸狩声を掛けるに遠すぎて
刈り草の上をしばらく走りたし
胡瓜漬け色良きあがり弁当に
月明の岬にあまた山葡萄
白南風や屋根のシーサ-沖睨む
装ひける薄衣にて通夜の席
押入に母の形見の白日傘
分家とは今は死語なる秋桜
夕立や季寄せ一冊卓の上
その人は古流水泳だけの人
起重機の先は隠れし霞かな
秋霖や書棚から抜く罪と罰
鰯雲いつまで売れぬ資本論
次の世の母の愛せし夏草履
凌霄や浅間に近き美術館
避暑村の何の買はざる散歩かな
軽井沢散歩に買ひしアイスクリン
武家町の漱ぎ場毎の菖蒲かな
葬儀社の紋切り型の夏見舞
凌霄花絵手紙を描く至福かな

空蝉の折紙細工のやうに落ち
飲む薬一つ減らしてまた泳ぐ
郭公の吾を招くか尾瀬ケ原
機関車は真黒にして青芒
機関車の長き沈黙青芒
藁葺の山門入りて菊茶会
祖父の地を遠くに思ひ青芒
浜木綿や民宿の朝若布汁
揚羽蝶蕎麦の花畑彷徨ひて
妻留守の独り夕餉の茸汁
妻留守のひとりで廻る扇風機
はまなすの図書館で借る童話集
廃校の窓から見ゆる土用波
花南瓜遙かな沖に小さき夢
昼顔の沖のボートに未来あり
新涼や念入りに洗ふ風呂場かな
長崎の折り鶴のある夕銀河 
不動尊の裳裾を濡らす滝飛沫
新涼や風呂場の窓を開け放ち
青芒看取り疲れの顔洗ふ
蕎麦の花看取り疲れの目を洗ふ
稲妻のほしいままなるプールかな



つかの間の夢の中にも君が居て帰らぬ恋のかくも麗し

天の川花咲くごとくありにけり
しばらくは雨の途絶えて赤蜻蛉
燃え尽きてやがて悲しき大文字
君の星麗しからずや星月夜
山葡萄灯台守はただ独り
野葡萄を摘みては恋を語りけり
秋桜摘むは病ひの子の為に
この天気秋とも梅雨とも解らずに
佐久平いま秋桜咲き乱る
謐かなる湖は落ちたる星ひとつ
水澄みて口漱ぐこと亦嬉し
ぼんやりと暗き世界の秋桜
切り株に茸あまたや朝の冷え
露草を踏み太極拳小半時
山国の蚋の太さに驚きぬ
郭公の谺の遠く聞くあした
郭公や朝のコーヒーやや苦し
白樺の切り株太き茸生ゆ
深水のスケッチ少女蕎麦の花
コーヒー店の看板隠すほどの百合
雲に触れ少し冷たき蕎麦の花
霧ごめの杉の秀先は霧に消へ
子を捜す夢の旅さへ霧のなか
霧ごめの帰りこぬ子を捜す夢
霧に落つ紅薔薇こそ哀れなり
郭公の声を聞きつつ句作かな
白百合の揺れこそ哀しいコーヒー店
切り株にびっしり生えし茸かな
朝烏聞きつつ霧に濡れにけり
朝烏聞きつつ霧に濡るる旅
霧に落つ薔薇の一ひらまた一片
吾亦紅活けて信濃のそぞろ寒

短歌コーナー
気まぐれは神の配剤かも知れぬその時々に人のいとしき

俳句コーナー
遠き日のいとしき子達よ秋桜
コスモスや子供の汽車は煙(けむ)吐かず
雨に散るコスモスを踏む散歩かな
朝まだき舗道に木の実落つる音
耳しひの木地師の挽きし白木独楽
胡麻を挽けば古き浪速の子守唄
かりがねや理由分からぬ欠伸して
秋桜平群の山に靄の湧きけり
走馬燈夢の一世でありぬれば 
遠き日の優しき子達よ鰯雲
遠き日の子達はいとしき鰯雲
掬ひける水の透きさへ素秋かな
茸山より遂にその人帰り来ず
亡き母に一騎参らす茄子の馬
遙か聞く象のおらびや鰯雲
秋日傘やがて消へゆく古道かな
暑気中り響く子供の積み木かな
焼く前にさらりと描く秋刀魚かな
焼く前に青墨で描く秋刀魚かな
みちのくの空の紺碧秋刀魚買ふ
秋刀魚焼くけぶりにしばし目をつぶり
喉ぼとけ大きく動きラムネ飲む
水眼鏡額に上げて挨拶す
水眼鏡あげ麗しき鮑海女
鰯雲割りて伸びゆく飛行雲
秋霖のの三日続きの大あくび
玉音を思へば八月いと哀し
走馬燈人の生涯かの如く
大夕焼けかつて漁村でありし浜
棕櫚の花水着の少女通り過ぐ
鰯雲蹴りて飛び込むプールかな
盆供花や一族郎党集合す

短歌コーナー
佳き戦あるわけは無し飢えに死にゆく子達を思へば
次ぎの世へ片道手紙出しにけり星の瞬き答へて下さい

俳句コーナー
蜜蜂の羽音ぶんぶんラベンダー 
竜巻の渦とも見ゆるみどりの茶
玉音を汗と涙で聞きしかな
玉音を聞くも涙の葉月かな
先生よ玉音放送如何に聞く
泣き虫の子の為に買ふ金魚かな
いとけなき子の為に買ふ金魚かな
盆踊りせむとて寄付を集めに来
重き雨どうと降りけるプールかな
虫の音の戻る踊の灯の消せば
炎天にテントを組むは葬なりし
踊の灯消して虫の音戻りけり
寒き夏嘆き越中薬売り
爆撃機編隊で来し炎暑かな
爆撃機編隊で来し葉月かな
滝落ちし水煙に立つ不動尊
夕立を軒に避ければ茶を勧め
雲の峰たちまち弁慶法師かな
踊の灯落とし虫の音の戻りけり
稲妻や縁台将棋盤の飛車飛べり
萩月や教科書数多墨で消し
萩月や旅の鞄に衣を加へ
炎熱光と涙をそそぐ敗戦忌
浮子見る望遠鏡を蘆の間に
蘆原に姿隠して鮒釣れり 
廚から酒の匂ひて茸飯
早稲の香に包まれをりし道祖神
短歌コーナ
酸漿を鳴らして少女頬豊か宵の祭の果てにけるかな
捻花の一輪挿せし夕べには故郷の母に遠電話する
悲しとは哀しとも愛しともやまと言葉の歌のいとほし
老いといふ哀しき言葉ありにけり今も忘れじ少年の夢
魂の炎集まり焼き尽くすいくさの時代夢かまぼろし
その国の文に貼りたる切手には若き女王の面影いつも
宣戦の無き戦悪しと言ひし国またもや他国占領したれり

俳句コーナー
哀れにも目しひ秋霖籠もりかな
秋涼し茶碗に注ぐ翠の茶
ラベンダー一輪摘むも秋思ひ
盆の供花如何にせむとて深思ひ
新秋刀魚買ひに走るも霖雨かな
新秋刀魚買ふべく走るささめ雨
秋霖や独りオセロの亦負けて
紅花や芭蕉読みゐる壺碑かな
芋嵐瀧壷深く不動尊
新秋刀魚とて価格は問はざりし
喪に服し精進潔斎冷奴
喪に服し精進潔斎夏料理
紅花の茂吉の国の夕日かな
郭公や屯田屋敷大夕日
廃校の木柵朽ちて日輪草
盆僧葬り短かに去りにけり
盆僧のあまりに早き読経かな
はまなすの岬に怒濤立ちにけり
湧泉の奏でる音も秋さやか
サングラス脱して読むは啄木集
浄瑠璃の恋は哀しき星祭
古書店の間口一間秋霖雨
息留めて暫し見つめし油虫
幼なごの夕の電話も素秋かな
静かにもごきぶり捕らふ手際かな
その戦史大方嘘で終戦日
赤ん坊の言葉また増へ日々草
この百年あまた戦や百日紅
古書店に吹きこむ風も素秋かな

短歌コーナ
秋めくや散歩の径に拾ひたる羽根の幾枚文にと挟む
横たはり独りし聞くは吾が鼓動まだ生きているこの嬉しさよ
小さき灯なれど百万集まれば大き炎と平和の烽火(のろし)
たましひの色は何色水の色流し燈籠行きつく先に

俳句コーナー
秋さやか小鳥の声に目覚めけり
鰯雲割りジェット機の去りにけり
白粉花(おしろい)やお喋り上手の子となれり
秋桜人と逢はねば淋しくて
この朝は人皆いとほしく秋桜
しがらみは何処にもありてかたつむり 
木の実鈴散歩の調べ亦愉し
秋涼しギターの調べ柔らかに
秋桜作りて崩しす砂の城
うつし世を惜しむが如く法師蝉
十七字如何にせむとて秋思かな
烏賊の腑(わた)もぎて洗ひし水の澄み
エデイプスの哀しき悔いや枯芒
青芒わが子育てに悔い数多
哀しみは愛とも近い鰯雲



短歌コーナ
秋来ぬと風に目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる 藤原俊行 古今集
葛飾の真間の手児名をまことかも我に寄すとふ真間の手児名を 万葉集14.3384

葛飾の真間の手児名の跡慕ひ訪れたれば今秋桜 麦秋

俳句コーナー
菊花展始まる朝の箒跡
この朝の風もさやかな秋桜
蝌蚪あまた音符となりて歌ひけり
海星踏み心ともなき子の歩み
母在す星もありけり星月夜
吾が栖朝の風にもさやかかな
孫の手て背中を掻くも虫刺さされ
虫すだく夜に繙く季寄せかな
繙きし古今集にぞ風さやか
古(いにしえ)の和歌集買ふも素秋かな
雅楽にて舞ふ太極拳や秋涼し
茸汁少しは若布散らしけり
秋めくや酢和への若布喉に添ひ
みちのくの生椎茸を土産とし
鯖雲や俳句の奥の深さかな
さきはひや昼寝覚めには満ち足りて
箸置きは翠の硝子いま素秋
たゆたへる鵜舟のあまた大花火
鰯雲割りてジェット機飛行雲
巫女稚なこの花咲くや姫祭


短歌コーナ
一瞬の光に消へし魂あまた武器を持たぬと誓ひ忘るな

俳句コーナー
走馬燈青き魂とし帰り来よ
石燈籠あまた倒せし夏の地震(ない)
水撒けばたちまち集ふ秋津かな
あきつ島地震(ない)の後また台風来
水撒きは秋津の群のなかにあり
朝に飲む薬の水も素秋かな
朝さやか一病息災薬飲む
思はずに朝の挨拶風さやか
朝さやか白き兎に餌与ふ
さやかとは吾が子の名前いま素秋
素麺ののんどを滑る早さかな
蕎麦よりも素麺が好きこのところ
蕎麦の花遙かに望む岩手山
山深く無住寺ありて秋桜
夏痩せをおせぬ妻のため豆腐汁
向日葵や学校花壇弾みけり
台風や棒の如きに雨落ちる
素麺に微塵茗荷の良く合ひて
秋桜咲くまっただ中の会議場
稲妻や世間嫌ひが化粧して
麻婆豆腐しっかり食べて暑気払ひ
暑中ピリとしたもので食欲を出しました。
みどりごは目高をいるかと呼びにけり
やわらかに面をあげるのし泳ぎ 


短歌コーナ
高層の窓より見おろす図書館の屋根の煌めく夏とはなれり
ここからは白馬岳の大雪渓いざ鉄の爪靴にぞ付けむ
思ふれば飢えの毎日ありにけりあの炎熱の疎開の夏よ
友禅の晒せし川の水増えて飛行雲こそ空を横切れる
うとうとと眠き講義を聞きたれば吾がメモはただ幾何学模様

俳句コーナー
台風の合間を縫って友に逢ひ
朝顔の崩れるほどの俄雨
吾が顔の映れる泉の水汲みぬ
手に溢る薊を摘みて墓参り
鬼灯を買ふはいとしき妹(いも)のため 
すべからく矢の如台風襲ひけり
その夜だけ舟が集へる花火かな
亡き父の呼ぶ声聞きて昼寝覚め
村道に犬の一匹昼寝どき
昼寝覚めまだしばらくは夢心地
蜻蛉の群に包まれ葬の列
浴衣着て祭り囃子に血が騒ぐ
無住寺の境内数多秋桜
うつし世に戻るに長き昼寝かな
ガレージは猫の昼寝の指定席
霊棚に供ふるための水羊羹
泳ぎ終へ丹念に身を洗ひけり
まんじゅうを買ひし朝市飛騨の秋
青紫蘇を摘むは素秋の風のなか
百日紅宇佐八幡に人を見ず
霊棚に秋の灯しを二つ置き
本棚の心経抜くも素秋かな
菊月や繙く一書ヨハネ伝
短歌コーナ
透き通る白魚喉に通るとき吾は魚に生まれ変われる
くらくらと目眩ひのしたる原爆の光り輝くその一瞬に
昼顔の咲ける浜辺に来てみれば昔のナイフ錆びて残れる

俳句コーナー
草間時彦追悼
冬薔薇や賞与劣りし一詩人  草間時彦

Tシャツの胸のあたりに手の模様
Tシャツの胸のあたりの花模様
サンダルの紐の七色夏木立
啄木鳥の青葉隠れも尾瀬ケ原
トルコ桔梗活けて待ちけり盆の客
地下抜けて炎暑を走る電車かな
写真展見ては素秋の走り雨
写真展見ては初秋の走り雨
写真展見ての帰りの秋日照雨
泳ぎける背に痛きほど走り雨
草いきれ流すためにぞ水浴びる
はらからの為に灯せし走馬燈
日焼けせし背を丹念に洗ひけり
泳ぎける背に痛きかな日照り雨
文字摺草吹きくる風に太極拳
捻り花吹く風に乗り太極拳
秋立つや鏡の顔は父に似し
星祭り心素直に文を書く
背に当たる初台風の痛さかな 
長梅雨のつもりで買ひし模様傘
肌に添ふ素秋の風の優しさよ
みちのくのこけしの里に道おしへ
みちのくは梅雨より秋に入ると聞き
芭蕉いまみちのく歩む蝉しぐれ
空蝉の小枝に縋るいとしさよ
蝉時雨今年最後のこの仕事
新盆の供花を選べば日照り雨
墓参へと供花買ひたれば蝉しぐれ

短歌コーナ
青い鳥近くにいるを見知らずにチルチル・ミチル世界彷徨ふ
さわさわと薯の葉そよぐ朝なれど一人し泳ぐプールなりけり
波音のさざめく浜の昼顔に一人し詩(うた)の世界にありぬ

俳句コーナー
玉葱を晒す香りに酔ふ廚
音たてぬ蛇の泳ぎの早さかな
はまなすや手にとるやうな国後島
はまなすの沖の遥かに国後島
昼顔や手にとるやうな国後島
昼顔の沖の遥かに国後島
紀の国や浜木綿いつも揺れていて
東雲の那智の空かけほととぎす
青嶺へと踏みだす一歩大鳥居
瀧へ行く山道阻む大鳥居
はまなすや午後の眠さの読書かな
昼顔を見て眠くなりける午後三時
光堂包み尽くせし蝉時雨
筒鳥や佐渡に古びし能舞台
昼顔の静寂破り薪能
炎天を帰り来たりて水浴びす
四角なるプールを丸く泳ぎけり 
かなかなや長く勤めし職場去る
幸せは遙かにありて鰯雲
一杯の冷酒に酔ふや風呂あがり 
水撒きて小さな虹を創作す
青嵐ふと翻す創世記
大いなる「うなぎ」の暖簾翻す
七夕や杜のみやこの俄雨
七夕の短冊にある吉の文字
茂吉ほど鰻は好きになりにくて
うなぎには国籍あると思はれず
短歌コーナー
七夕の夜は銀河を見るに良し望遠鏡をやおら取り出す

俳句コーナー
星月夜昔のことは忘れたし 
終戦忌句作のときも涙して
秋桜咲いて怒濤の襟裳かな
秋吉台いまコスモスの真盛り
シャツの襟きりりと延ばし秋迎ふ
秋芳洞出たる清流澄みていし
幽かにも河鹿聞ききける流れかな
露けしや国見の丘に太鼓打つ
さやけくも流れる如く太極拳
まほらばの国見の丘の萩の花
丘ごとに相馬盆歌競ひけり
新盆に供ふ故人好みの栗羊羹
盆の供花迷ひて百合と定まりぬ
うるはしき造花の揺れし水中花
積み上げし廃車の嵩ぞ鰯雲

8.6入れる原稿
短歌コーナー
大花火屋根にあがりて見しは過去吾に背きし子はいまだ幼き

俳句コーナー
ねんごろに偽端渓を洗ひけり 草間時彦

海鞘(ほや)食べていてしばしの驟雨かな
海鞘(ほや刺身食べしばしの俄か雨
海鞘(ほや刺身食べてみちのく俄か雨
海鞘(ほや)食べていてみちのくの驟雨かな
海鞘(ほや)捌く技もみちのくの住まひかな
水族館退屈さうな海鞘(ほや)がいて
水族館退屈さうに海鞘(ほや)眠る
鉄風鈴描くほど良き墨の濃さ
くろがねの風鈴揺らす風よろし
もどかしく辞書引きたれば心太
サルビアや親戚よりも友が良し
冷やし蕎麦たっぷり食べて有難う
逝きしより夢のなかにも大銀河
幼な子の猫のかたちの昼寝かな 
眠りても心に残る虹の橋
敗戦日膝つき涙流すのみ
逝く夏や絵手紙の君少し痩せ


短歌コーナー
うちあげるはなびによせるわがおもひきみのもとへとはるかとどけむ

俳句コーナー
弟子持たぬ俳人逝きし夏の星
鱧食みし夢のなかにも逝きにけり
(俳人 草間時彦 逝去83歳 追悼2句)

明け易し秒針の音に目覚めけり
白髭に手入れ丁寧パナバ帽
白髭の誇り高くてパナバ帽
ガラス器に溢るる程の掻き氷
みどりごの唇真っ赤掻き氷
大団扇時折休め句を案ず
向日葵の道を巡りて子の家へ
檜扇を時折休め句を案ず
みどりごの鼻は祖母似で西瓜好き
みどりごのでんぐり返り日輪草
房総は海に国にて岩燕
洞窟を出し清流に遠河鹿
みどりごのまなこの円ら青蛙
尖塔に雲の休憩夕爾の忌
パナマ帽少しの気取り草田男忌
燈台の沖に怒濤や秋桜
泉より水汲みたれば雀来る 
すだきける虫は短命死と生と
埴輪立つ貝塚の丘二重虹
青嵐埴輪のまなこ吹きとおり
大夕焼の埴輪の丘にもの思ふ
いにしへは貝塚に寄す青葉潮
神鏡を照り返しては青葉潮
靖国の神の恨みや終戦日
炎暑の地いまなほ戦火なほ哀し
終戦日信ずるものは何も無し
終戦日熱き涙が頬濡らす
膝まづき鎮魂のみの敗戦日

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